法務省のホームページ内の「民法(成年年齢関係)改正 Q&A」の記載によると、そもそも成年(成人)年齢 の引き下げの目的は、”18歳,19歳の若者の自己決定権を尊重するものであり,その積極的な社会参加を促すこと”とされています。
明治時代初期の法令形式である、太宰官布告(1876年)により、日本の成人は20歳とされてきましたが、イギリスやドイツ、フランスなどの諸外国では成年の年齢を18歳としており、今では10代で成年と定めている国が多数あります。
2022年4月1日以降は18歳以上であれば成年とみなされ、親の同意なしでさまざまな契約をすることが可能になります。これだけ聞けば聞こえはいいですが、逆に言えば子供1人で自由に契約ができてしまうということ。企業としても、さまざまなトラブルが発生するリスクを考える必要があります。
法改正の認知の広がりとともに、どんなリスクの可能性があるのか、20歳以前に成年を迎える事になる、現在16~19歳の女子と、その世代の子を持つ親を対象に調査を行いました。
昨年に比べて認知度合いに大きな変化はなし
「知っている」「時期は知らないが、成年(成人)年齢が18才になることは知っている」を合わせた割合は、親子ともに9割を超える結果となりました。
「知っている」と答えた親においては、2020年調査の57.8%から65.7%と約8.0ポイント増え、親の立場としては法改正の時期が近付いてきたことで認知が少々高まっているようです。とはいえ、認知率自体に大きな伸びは見られず、まだまだ法改正について周知の必要がありそうです。
法改正の情報を知るきっかけは「ニュース」が最多
法改正について、どこで情報を得たか、という点についての質問をしたところ、親子ともに「ニュース」が最も多数となりました。
さらに子供においては、二番目に多く挙がったのが「授業」。やはり法改正の実施で当事者となる生徒たちに向けて、多くの学校でトピックとして取り上げる機会があるようです。
また、「お子さんや家族との会話」と答えたのは、親と子どちらも3割程度と少なめな結果となりました。家庭内で成年(成人)年齢 の引き下げについてを家庭内の会話によって知る機会は、あまり多くないようです。
「タバコやお酒も18歳からOK」と誤った認識をしている親も
「親の同意なしでローンを組む」ことについての認知度は、子供は6.1ポイント、親は6.4ポイント増えており、親子ともに理解が進んでいることがわかりました。
とはいえ、法改正で「できるようになること」については、最大でも6割程度の理解となり、昨年と大きな差は見られませんでした。
ただ、飲酒や喫煙ができるようになるのは現状と変わらず20歳以上のままですから、2022年の4月以降も18歳ではどちらも禁止です。しかし、「できるようになること」について、まだ親子ともに「お酒を飲む」「タバコを吸う」と回答している人が1割ほどいる結果となりました。しかも「飲酒」「タバコ」「ギャンブル」のいずれに対しても誤認識しているのは、親世代の方が多い傾向があります。少数とはいえ、誤った認識から知らないうちに法を犯してしまっては大問題につながります。また健康面での影響も懸念されます。親が誤った知識を持ち、家庭で注意ができない可能性がありますので、タバコやお酒を扱う、また遊技業を営む企業や公営競技などでは、正しい情報をしっかり周知する必要がありそうです。
親の知らぬ間に、高額契約や雇用契約でトラブルが発生する可能性も
法改正後に、18歳から親の許可なく行える事柄について「子供が親に相談したいか」、「親は子に相談されると思っているか」それぞれに意識を調査してみました。すると、「エステ、脱毛をする」と「雇用契約をする(アルバイトを含む)」の2項目が、親より子供の方が8ポイント以上少なくなる結果になりました。
つまり、親は相談してほしくても、子供の認識では自分だけでエステや脱毛、アルバイトを契約してしまう可能性があるということ。安易に契約してしまうことで、高額な契約や不利なアルバイトを契約させられるなどのトラブルの発生が懸念されます。
また、エステなどの契約の場合、高額な契約をしてもクーリング・オフ制度を用いれば、一定期間以内であれば無条件に契約を解除できますが、その知識がないと納得いかないままローンを支払い続けることになります。雇用の場合も、労働基準法に定められた働き方について知識があれば、不利な労働契約かどうかに気づくことができます。消費者や労働者が持つ権利や制度についても、サービスや労働を提供する企業側からしっかり説明をする必要があるでしょう。
説明を怠らず、子供からも親からも正しい理解を得ることで法改正後のリスクを回避
昨年に比べ認知は少々伸びているものの、成人になって「できること」と「できないこと」の認識ができているのは、親世代も子供世代も3分の2程度という結果にとどまりました。特に「できないこと」を誤って「できる」と認識してしまうのは、たばこやお酒など法に触れてしまう重要な誤認識と健康上の問題があるため、引き続き周知の必要がありそうです。
また、高額になりやすいエステの契約などは「親に相談する意識のある子供」が「子に相談されると思っている親」より少ないため、親に相談のないまま施術や契約を行い、トラブルに巻き込まれる可能性もあります。
高額サービスを提供する会社にとって、成年(成人)年齢引き下げはビジネスチャンスの広がりとして注目度は高いですが、トラブルを招く要因が増える点についても理解しておく必要があるでしょう。
さらにアルバイトの契約についても、親に相談しようとする子供の割合が低めな傾向があります。新成人世代とアルバイト契約を結ぶ時は、雇用に関して詳細に、しっかりと説明した方が安心です。
まずは家庭内で成年(成人)年齢 引き下げに関する変化について話し合う機会を増やす必要性があるのはもちろんですが、 企業側が契約後のトラブルを防ぐためにも、必要な説明を省くなどせず、本人にしっかり確認して理解してもらうように、アプローチすることが大切でしょう。
調査概要
調査対象者:16~19歳女性263名、左記世代を子に持つ親198名
調査方法 :インターネットリサーチ
調査時期 :2021年8月30~9月3日
執筆者
林 佑樹