電車やバスのみならず買い物にも使える交通系ICカードや、アプリ上での支払いが完結できるスマホ決済など、いわゆるキャッシュレス決済をそこかしこで見かけるようになりました。
文字通り、現金を使わずに支払いを済ませる方法であるキャッシュレス決済は、消費者にとって、大量に現金を持ち歩かずに済んだり、支払い履歴をもとに家計管理がしやすくなるなど多くのメリットがあります。支払いを受ける店舗側にとっても、現金管理にかかる作業時間を減らす等の効果があります。
このように支払い方法として身近になった”キャッシュレス”が、2023年4月から「給与のデジタル払い」という形で、使用者から労働者への対価の支払方法としても解禁されます。
以下に、厚生労働省による「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」の「趣旨・概要」を引用いたします。
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賃金の支払方法については、通貨のほか、労働者の同意を得た場合には、銀行その他の金融機関の預金又は貯金の口座への振込み等によることができることとされています。
キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られることも踏まえ、今般、使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払(いわゆる賃金のデジタル払い)ができることとしました。
資金移動業者の指定要件等については、労働政策審議会労働条件分科会において、公労使の代表に議論いただいた上で、定められました。
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かくして、働いた対価をキャッシュレスで受け取れる社会へ移行するわけですが、
仕事をもつ社会人に限らず、アルバイトをする/したいと思う学生にとっても関係する変化です。
そもそもスマホ決済をどのくらい利用しているか、給与のデジタル払いについて認知状況はどうか、そしてデジタル払いで給与をもらいたいと思っているのか……?
弊社で調査した結果を以下の通り、ご紹介いたします。
若年層のスマホ決済利用が拡大
2022年11月に調査したところ、直近1年以内の買い物(通販を除く)について、スマホ決済を利用したことがある割合が、高校生が52.1%、大学生等が58.9%でした。
ショッピングモールやコンビニ、スーパーなどスマホ決済が利用可能な場所は数多いからでしょう。高校生以上では半数超の利用者がいることがわかりました。
制度変更の認知者は5割以下。認知経路は「ニュース」
今春から解禁の「給与のデジタル払い」について、高校生のうち、解禁時期含め制度を知っていたのが12.2%、解禁時期こそ知らなかったが制度導入は知っていたのが13.5%でした。また大学生等ではそれぞれ23.2%、21.6%でした。
解禁時期の認知を問わなければ、「給与のデジタル払い」は高校生の25.7%、大学生等の44.8%ということがわかりました。
認知者に対して、「給与のデジタル払い」について、どんな経路で知ったかを聞いたところ、高校生・大学生ともに「ニュース」(64.9%、57.4%)が最多でした。次点以降の「学校の友人との会話」(9.5%、10.2%)、「親御さんや家族との会話」(6.8%、8.6%)に大きく差をつけました。
認知経路の結果から、テレビやインターネット等を経由して知るものの、身の回りの話題になるとまでは言えない、といった様子が伺えました。
ただし、春以降にニュースが増えた折には、認知率が高まっていくのではないかと思われます。
デジタル給与払い希望者は1割に満たない
現就業者を含む就業希望者に対して、アルバイト就業時に希望する支払い方法を聞いたところ、多くが口座振り込みを希望していました。次いで、「現金(手渡し)」(高校生31.9%、大学生等20.4%)で、「デジタル払い」(6.6%、3.6%)の希望者は極めてまれであることがわかりました。
一方で、現金払いを希望する若年層は一定数おり、その数はデジタル払いを希望する人の4~5倍になります。これは「現金払い」が単に「金融機関を介さない支払い方法」なのではなく、「働いた日にもらえる都度払い」であることが影響している可能性があります。
「デジタル払い」は口座振り込みに比べると都度払いへの対応が容易なため、そうした“当日にその場でもらえる”期待に応える手段になりえます。デジタル払い普及の鍵は、このあたりにあるのかもしれません。
デジタル払いは、現金払いニーズを満たすか
給与のデジタル払いについて、認知が浸透しきっていないことに加え、積極的に希望する若年層は少ないということがわかりました。
デジタルネイティブである若年層ならば、新たな生活様式をスムーズに受け入れるのではないかと思われる方にとっては、意外な結果といえるのではないでしょうか。
しかし、現金払いの代替手段として訴えれば、都度払いに対応しやすいデジタル払いは浸透しやすいとも考えられます。
今回調査の対象とした若年女性には友人との付き合いやファッション、推し活など支出の場面が数多くあり、月に1度まとまった金額が振り込まれるよりも「働いた分だけすぐに払ってほしい」というニーズは今後もなくなることはないでしょう。
労働者側において、「デジタル払い」が「現金払い」の代替手段としてニーズを満たすのであれば、企業側の現金管理リスクの低下も加え、よりスマートなお金のやりとりが進みそうです。
調査概要
調査対象者:高校生~大学生(短期大学・専門学校含む)の女性
調査方法 :インターネットリサーチ
調査時期 :2022年11月14日(月)~2022年11月21日(月)
執筆者
林 佑樹